杉浦健一(すぎうら けんいち)氏(1905―1954)は、東京大学文学部卒業後、民族研究所所員、東京大学理学部講師、東京外国語大学教授、東京大学教養学部教授を歴任した文化人類学者で、日本の文化人類学の創成期に活躍した研究者にふさわしく、幅広い領域と学説に関心を寄せました。宗教民族学から始まって文化圏説に傾倒した後、柳田国男の主催する日本国内調査に参加してからは歴史主義から機能主義へと方向を変え、1937年以降太平洋戦争の勃発する1941年まで、南洋庁の嘱託として、パラオ、ヤップ、ポナペ、トラックなどミクロネシア諸島での調査に傾注、貴重な論文を多数発表しました。これは日本人によるこの種の海外調査の先駆けです。
第二次世界大戦後、杉浦氏は、戦前・戦中に進展したアメリカ人類学、中でも文化とパーソナリティー論に触発されて形質人類学と文化人類学の接点を模索する中で、日本の農村調査を行い、また日本民族学協会によるアイヌ文化の総合研究にも参加し、親族組織を機能的に再構築する研究の途上、病に倒れました。主著に『原始経済の研究』(1948)、『人類学』(1951)などがあります。
このアーカイブは、ミクロネシア諸島調査時に記されたフィールドノート、メモ、草稿、地図など、東京大学理学部人類学教室に残されていた杉浦氏の膨大な資料が、民博の創設後間もない1975年8月に東京大学理学部人類学教室から民博に移管されたものです。オセアニア研究にとって貴重な資料が含まれています。